夜の十一時、同じ問題の上で三十分が過ぎている。計算は三回見直した。三回とも同じ数字が出て、それでも解答と合わない。
こういうとき検索窓に打ち込まれるのは、たいてい「わからない問題 ai」か「数学 教えてくれるアプリ」あたりだ。返ってくるのは答えで、答えならもう手元にある。足りないのは、自分の答案のどこで最初に道を外れたのかを指してくれる相手のほうだ。
先に断っておくと、これは自分たちのボットの話になる。Taviは私たちがつくった学習メンターで、Telegramの中で動く。日本語を含む各言語版のハンドルは @tavi_assistant_bot、リンクは t.me/tavi_assistant_bot 。自社のボットを中立に評価できる人間はいないので、これは評価記事ではない。代わりにできるのは、実際のやり取りを一つそのまま載せて、それが何を示していて何は示していないのかを書いておくことだ。
Taviはチャットの中で数式を扱い、グループチャットに追加することもできる。この記事で扱うのは物理の一問——なめらかな床の上に置かれた2.0 kgの物体で、上の画像に写っているのがそのやり取りそのものだ。教科は物理だが、持ち帰る価値があるのは問題のほうではなく聞き方のほうになる。
「答え」ではなく「最初に間違えたステップ」を聞く
答えだけを返してくる道具は、もう十分にある。写真を撮れば解いてくれるアプリがあり、解説つきの掲示板があり、汎用のチャットAIもある。それでも机の前で詰まっている時間が短くならないのは、多くの場合、詰まっているのが計算ではないからだ。
やることは単純で、自分の答案を最初から最後まで、ステップに番号を振って書き出して送る。そして最後に一行つけ足す。「最初に間違っているのはどのステップですか。理由を説明して、直すのを手伝ってください」。これだけで返ってくるものの性質が変わる。最終的な数字が合っているかどうかではなく、自分の推論のどこが分岐点だったかが返ってくる。
この聞き方には副作用もある。番号を振って書き出している途中で、半分くらいは自分で見つかってしまう。見つからなかったときだけ送ればいい。
画像のやり取り:2.0 kgの物体と、足りない一本の矢印
問題はこうだ。質量2.0 kgの物体が、なめらかで水平な床に接している。物体を水平右向きに6.0 Nの力で引く。重力加速度を9.8 m/s²として、物体に働く力と、水平・鉛直方向の加速度を求める。
送られた答案は三行だった。ステップ1、力の図には右向きに6.0 N、下向きに19.6 Nの二本の矢印だけを描いた。ステップ2、右向きを正としてaₓ = 6.0 / 2.0 = 3.0 m/s²。ステップ3、上向きを正としてaᵧ = −19.6 / 2.0 = −9.8 m/s²。
ここで大事なのは、計算が一つも間違っていないことだ。ステップ2の3.0 m/s²は正しい。ステップ3の−9.8も、ステップ1の図を前提にすれば正しく導かれている。それなのに、物体は床の上にあって下に落ちてはいない。
最初に間違っているのはステップ1、つまり図のほうだ。抜けているのは床からの垂直抗力で、「なめらかな床」は摩擦がないという意味であって、床が物体を支えていないという意味ではない。物体は床から離れずに水平に動くのだから、鉛直方向の力はつり合っていなければならない。矢印は二本ではなく三本になる。
直したうえで並べ直すと、鉛直方向は N − 19.6 N = 0 より N = 19.6 N(上向き)。水平方向は aₓ = 6.0 N ÷ 2.0 kg = 3.0 m/s²。鉛直方向の加速度は aᵧ = 0 m/s²。答えは aₓ = 3.0 m/s²、aᵧ = 0 になる。
これは一回のやり取りで、示しているのは画像に写っていることだけだ。問題が読まれ、最初に外れたステップが名指しされ、直った式が返ってきた。特定の試験に対応しているという主張ではないし、ボットが返すものは採点ではない。
面白いのは、ステップ2と3を何度見直しても直らない種類の間違いだという点だ。見るべき場所が計算の外にある。
計算が合っているのに答えが違うなら、疑うのは図のほう
力学で多いのはこの形だ。式の変形ではなく、式を立てる前の一枚の図に矢印が一本足りない。そこから先はどれだけ正確に計算しても、正確に間違った答えに着く。
教科が変われば置き場所も変わる。化学なら比が掛かっている相手がモルなのかグラムなのか、数学なら定義域や、平方してから捨て忘れた候補。共通しているのは、その一歩が計算の前にあることで、だから「計算を見直す」やり方では見つからない。
質問の形にすると、こうなる。この式を立てる前に自分が置いた仮定を全部並べてください、そのうち問題文に書かれていないものはどれですか。図が足りない種類の間違いは、この問いにだけ引っかかる。
塾・予備校・模試の復習と、どこで重ならないか
日本の高校生にとって、教わる場所はたいていすでにある。学校があり、塾や予備校があり、質問できる相手がいる。足りないのは教える人ではなくて、その人がいない時間帯のほうだ。
模試の復習はその典型で、返却された答案を前に一人で座っている時間が復習の本体になる。解説を読んで「わかった」で終わる問題と、なぜ自分がそう書いたのかを言葉で説明できるようになる問題とでは、次の模試での残り方が違う。後者に必要なのは新しい解説ではなく、自分の答案についての一行だ。
共通テストに向けた演習でも、志望する私立大学の過去問でも、やることは変わらない。一問ごとに「最初に外れたのはどこか」を一行で書けるなら、その一行がそのまま復習ノートになる。試験そのものの形式や出題範囲は公式の資料で確かめるとして、この一行は誰が出題しても効く。
LINEのグループではなく、まずは個人チャットで
日本で友だちとのやり取りが動いているのはたいていLINEで、Telegramを毎日開いている高校生は多くない。だから、いきなり勉強グループごと引っ越す必要はない。まずは個人チャットで一問投げてみて、返ってきたものが自分の詰まり方に合うかどうかを見るほうが早い。
合うと思ったら、グループチャットに追加することもできる。グループで効くのは場面が決まっていて、同じ問題を二人が別々に解いて答えが割れたときだ。両方の答案を並べて、どちらのどのステップで分かれたのかを聞く。人間側は、指摘されたステップを自分の言葉で説明し直す係になる。
グループの中でボットにどのメッセージが見えるかを決めるのは、ボットではなくTelegram側の権限設定だ。追加したら、何が届いていて何が届いていないのかを先に確かめておくといい。どのメッセージがボットに渡るかはTelegram公式のボットFAQが基準になる。
10分で試す
必要なのは10分と、答えを持っている一問だけだ。
- t.me/tavi_assistant_bot を開く。ハンドルは @tavi_assistant_bot 。
- 手元の問題を一つ選ぶ。解答があり、しかも自分の答えが合わなかったものがいい。
- 問題文を省略せずに全部送り、続けて自分の答案をステップ番号つきで書く。最後に一行、「最初に間違っているのはどのステップですか」。
- 返ってきたステップ番号を読む前に、自分でも一度どこかを当ててみる。当たっていれば、その問題の復習はそこで終わっていい。
- 最後に、同じ形の問題をもう一問、今度は一人で解く。図を描くところから始める。
持っていくのは、解けなかった一問よりも、解けたつもりで外した一問のほうがいい。@tavi_assistant_bot 、t.me/tavi_assistant_bot 。